対談シリーズ

たゆまぬ改善

藤崎:
実は相当、このミッションステートメントを作るときに、僭越ではございますが、トヨタグループ様を参考にさせていただきました。このイノベーションのところ、そのまま“改善”とは書けなかったのですが、改善は常にやるんだと、常にあるんだと。そこは相当勉強して、参考にさせていただきました。
安形:
私自身はもう刷り込まれていますから、何かやっていないと気になります。改善していないと生理的にダメなのです。これをどういうふうに従業員のメンバー、グループ会社も含めてね、全員と共有化していくかということはまだまだ課題です。これは藤崎さんのところでは何かされていらっしゃますか?
藤崎:
今年は101年目なので、次にバトンをつなぐ初年度にあたりまして、これから事業継続していくために必要な土台、プラットフォームを作るということで、非常に王道的で基本的なことを運営方針にしました。“三本の矢を放つ”、とスタッフに伝えたのですが、二本目の矢として「もっと愛して東京ステーションホテル」というのをおきました。これはまさに、もう一度「ミッションステートメント」、つまりこのホテルがどうしてできたのか。どういう想いをつながなくてはいけないのか。

あと日頃の取組みとしては、総支配人のことを英語でゼネラルマネージャーといいますが、GMチップという階層別研修を行っております。エントリーコースという新人も含めた比較的若いスタッフと、ミドルを中心としたアドバンスコース、そして部門長以上プラス選抜者を対象にした「寺子屋」というのを私が自らやっています。これは和魂洋才塾というのですが、グローバルを意識しながら、私たちはメイドインジャパンであることをテーマにしているのです。

3つの研修を実施しているのですが、こうした研修を通じて、とにかくやり続ける、伝え続ける、そして課題をあげ続ける、ということしかないと。
御社のような継続的な改善、世界の“カイゼン”の代名詞でいらっしゃる企業の中において、どのようにそれを自然にできるようにするのか、ということをぜひお聞きしたいなと。
安形:
そうですね。藤崎さんがおっしゃったこととまったく同じことですね。まずは、体系立った教育体系がないとできないだろう、と思いまして。ずっとある階層別に、問題解決、TQMストーリーに基づいた研修をしています。自分の環境認識から始まって、自分、もしくは自分の組織に対するミッション、こういったものの認識から始まって、現状分析を行い、課題があり、課題の真因追求に至ります。いわゆる真因追求で「5why」なり、いろいろいわゆるQCをやります。
藤崎:
有名な「5回なぜ?」というものですね。
安形:
そうです。「5回なぜ?」とかこれは典型的なものですけど。あとはいわゆるいろいろなQCのツールがございます。そういったものを使いながら解析していって、最後に真因にたどりついて、それで真因にたどりついたら、それに対して対策を打って、対策の効果評価をして、歯止めをかけて、このワンステップ。その前に課題を設定したときに、課題の評価、ということを行ないます。
藤崎:
課題そのものに評価が入るのですね。
安形:
そうです。これをしないと、やれるところからやってしまいますから。
藤崎:
なるほど。
安形:
それで、ひとつちょっとひとひねりして作ったのは、マネージャー級には課題創造訓練をやっています。これは問題解決と似ているんです。ただ、問題解決訓練の場合は、今抱えてる問題は何ですか?ということでやりますが、マネジメント層に対しては、「今は何も問題はないが、社会環境変化なり、市場変化を考えるとこうなる可能性もあるのではないか?」と投げ掛けます。
藤崎:
将来予測に基づいてという。
安形:
その中で、成り行きで今の組織、技術力でこういくと、今はギャップがないけど、将来的に生まれるであろうギャップというものを考えさせ、つくり出させるのです。だから課題創造なのです。
藤崎:
課題も自ら創り出していくということですか。凄いですね。
安形:
そうです、課題を。これこそがマネジメントではないかと。私どもの業界はかなり日進月歩なものですから。
藤崎:
テクノロジーの世界ですから。
安形:
後手を踏むとあっという間に、2、3年間は厳しい状況になってしまいますから。そういう課題創造訓練を通じて常に前を見て、今が良いからいいわけじゃないと。3年後、5年後、10年後、どうなっていると思いますか?このプロジェクトで戦えますか?というようなことを問い続けています。
藤崎:
なるほど。
安形:
という層別訓練を加えて、これできっちりやっていくと少なくともいけるはずなのですが、海外から帰ってきたちょっとものの分かる役員にこの前も指摘されまして、「安形さん、まだうちは教育だけだよ。これをもっと日常業務の中に組み込む、落とし込む工夫をしないと、このままじゃ教育だけだよ」と言われました。そのとおりかもしれないなと。さて、それをどうするべきかと考えています。

“自らやる”。わざわざ当事者意識と入れてあるのですけれど。これがないと結局何をやってもダメだと思うのです。(藤崎さんのところでは)どうしておられますか?この内発的なエネルギーをどう喚起するか、ということに対しては。
藤崎:
そうですね。サービス業がメーカー様と違うところは、瞬間生産、瞬間消費、そして瞬間評価をされる。ある意味では非常にプレッシャーのかかるビジネスと思っておりまして、設えや装いという部分は充分に事前準備を行いますが、基本的には個々が持っている良識であったり、常識であったり、そういったものを最優先させようと思っています。最終的にお客様から評価されるのは、つまり振る舞いの部分においては、どれだけお客様の想いを共有・共感することができるかという顧客経験価値、モノよりコトだと思うのです。そこのカスタマーエクスペリエンスの部分が非常に大きいとなると、スタッフが目の前にいるお客様にどのぐらい全力を尽くせるか、真摯に向き合うことができるか、人として当たり前の感情を持ち得るか、ということが単なるオペレーションマニュアルより非常に大きい要素になってくるかと思います。

そこはあまり縛っておりません。例えば、困っている人がいらっしゃったら、具合が悪い人がいらっしゃったら、どれだけ自分が本当に真剣に向き合うことができるのか、応対できるのか、という基本的なことを大切にしています。それがお客様からのコメントであったり、お礼状であったり、といったものが当然フィードバックされるのですが、そういう評価を、リアルタイムにきちんと本人は当然のことながら社全体で共有しています。こういうことが私たちのホテルであると。これが素晴らしいストーリーなんだと。だから間違ってないんだ、私たちはOn the right trackを走ってる、ということを常にフィードバックする、PDCAを回すことに尽きると思うのですね。

人として当たり前のことを目の前のゲストに全力を尽くす。その際必ず組織でバックアップする、ということをコミットしておいて、それをやり続けるしかないかと。非常にアナログで泥臭い話になってしまうのですが、そこを大切にしています。